2024.01.22
前歯・奥歯が欠けたらどうする?原因別の対処法
歯が欠ける原因
人間の身体のなかでもっとも硬い組織が「歯」ですが、そんな歯も欠けてしまうことがあります。歯が欠ける主な原因は以下のとおりです。
■むし歯
むし歯菌が出す酸によって歯が溶かされていく病気がむし歯です。私たちの歯は、表面にエナメル質というもっとも硬い層があり、その内側に象牙質というやわらかい層があります。多くの場合、むし歯になるとエナメル質が点状に溶かされて表面に小さな穴が空きます。その穴からむし歯菌が歯の内部に侵入して象牙質を溶かしていくわけですが、エナメル質より象牙質のほうがやわらかく溶けるスピードも早いのが通常です。そのため、歯の表面には異常が見られなくても、内部の象牙質が大きく溶かされて空洞になっていることがあります。
歯の内部に空洞ができていれば、当然、歯は脆い状態になっています。そのため、硬いものを噛んだりしたときに、むし歯部分の歯が欠けてしまうことがあります。
■歯ぎしり・食いしばり
歯ぎしりや食いしばりによって、歯が欠けてしまうケースは多くあります。歯ぎしりや食いしばりによって生じる力は想像以上に大きいもので、その人の体重の2~3倍ほどだと言われます。つまり、体重が60キロの人であれば、120キロ~180キロもの力が歯にかかってくるわけです。
いくら歯が硬い組織だとはいえ、100キロを超える力が毎日のように加わり続けたら、ヒビが入って欠けてしまうのも無理はありません。健康な歯でも欠けることはありますが、特に神経を除去した歯は脆くなっているため、歯ぎしりや食いしばりによって欠けたり割れたりするリスクは高くなります。
■転倒や衝突(転んだ・ぶつけたなど事故による外傷)
歯ぎしり・食いしばりによって歯が欠ける場合は、長い間、強い力が加わり続けることによるダメージの蓄積が原因になりますが、転倒や接触など一瞬の強い力で歯が欠けるケースも多くあります。よくある例としては、交通事故やスポーツ中の衝突、転倒などがあげられます。歯ぎしりや食いしばりが原因の場合は奥歯が欠けることが多いのに対し、転倒や衝突が原因の場合は前歯が欠けるケースが目立ちます。
■酸蝕歯
歯の表面は、エナメル質という硬い組織で覆われていますが、エナメル質は酸に弱いという弱点があります。そのため、酸が強い飲食物を好む方は口腔内が酸性に傾きがちで、エナメル質が溶かされやすくなります。酸が強い飲食物の代表例は、お酢、ワイン、レモンなどの柑橘類、スポーツドリンク、炭酸飲料などです。
このように、酸によってエナメル質が溶かされた歯のことを「酸蝕歯(さんしょくし)」と言います。酸蝕歯は、エナメル質が溶かされて弱くなっているため、健全な歯に比べると「むし歯にかかりやすい」「欠けやすい」といったリスクがあります。
■噛み合わせの乱れ
私たちの歯は上下14本ずつがバランスよく噛み合っているのが理想ですが、噛み合わせが乱れている方は、一部の歯だけに過剰な力が加わっている可能性があります。一部の歯だけに力が集中しているとダメージが蓄積していき、その状態が続くとやがてヒビが入って歯が欠けてしまうことがあります。
歯が欠けたときの対応&応急処置
歯が欠けてしまった場合は、以下の点に注意して、できるだけ早めに歯科医院を受診してください。
■歯が欠けた部分に触らない
歯が欠けてしまうと違和感があるので、舌や指で触りたくなってしまいます。しかし、欠け方によっては非常に鋭利になっていることがあり、舌や指を傷つけてしまうこともあります。
また、大きな衝撃を受けて歯が欠けた場合は、同時に歯が脱臼(歯と顎の骨をつないでいる歯根膜という組織が断裂してしまうこと)しているケースもあります。歯が脱臼している場合、触ることで症状が悪化するリスクがあるため、歯科医院を受診するまでは安静にしていることが重要です。
■欠けた歯の保存方法
欠けてしまった歯を歯科医院に持っていっても、それを付けて元どおりにすることはできません。欠けた部分は補綴治療で対応することになります。
なお、歯が欠けたのではなく抜け落ちた(脱落した)場合、以下の対処ができれば、可能性としては高くはありませんが「再植」できるケースもあります。
(1)生理食塩水で歯を洗い、
(2)歯根の表面を絶対に触らないように、
(3)脱落した部分に歯を戻す(このとき、かなり痛みを伴います)。
とはいえ、歯が抜け落ちてしまったときに都合良く生理食塩水があることは少ないでしょう。その場合は、成分が近いスポーツドリンクでもOKです。もし、地面に落ちて土や砂が付いていたら流水で洗い落としてください。ただし、その際に歯根の表面に触るのはNG。歯根の表面に触ると歯根膜細胞が死んでしまい、再植はできなくなります。
■痛みがある場合は鎮痛剤を服用する
歯が欠けたときの衝撃によって歯の神経が損傷を受けていると、激しい痛みが出ることがあります。近くの歯科医院が休診や時間外などですぐに受診できない場合は、市販の鎮痛剤を服用してください。
■できるだけ早めに歯医者さんに行く
欠けた部分が小さく痛みや違和感がない場合、そのまま放置しておく方がいますが、歯が欠けたら必ず歯科医院を受診しましょう。歯が欠けた原因がむし歯である場合、放置していても自然治癒することはなく悪化するだけです。もし、欠けた部分の象牙質が露出していれば、そこがむし歯になりやすくなります。また、歯が欠けた原因が歯ぎしりや食いしばりであれば、歯ぎしりや食いしばりのクセを改善しない限り、また別の歯が欠けてしまうリスクもあります。
歯が欠けたときの治療法
歯が欠けた場合の治療方法は、歯の欠け具合によって変わってきます。一般的に、歯科医院では以下のような治療をおこないます。
■歯が小さく欠けた場合
歯が小さく欠けた場合は、詰め物による治療がメインになります。一般的には、レジン(歯科用プラスチック)という素材で欠けた部分を補います。
■歯が中くらいに欠けた場合
歯が中くらいに欠けた場合は、被せ物による治療がメインになります。保険診療の被せ物もありますが、自費診療の被せ物に比べると審美性や耐久性に劣ります。そのため、目立つ場所や強い力がかかる場所はセラミックでできた自費診療の被せ物がおすすめです。
■歯が大きく欠けた場合
歯が大きく欠けて歯の神経(歯髄)が露出している場合は、神経を残せるか残せないかで治療法が変わってきます。神経を残すことができれば、神経を保護したうえで全体に被せ物をして噛む機能を回復します。一方で、神経を残せないと判断されれば、神経を除去する「根管治療」をおこなうのが一般的です。
なお、神経を残せるかどうかの判断はドクター・歯科医院によって変わってきます。神経を残すための治療を「歯髄保存治療」と言いますが、歯髄保存治療は高度な専門性が求められる治療であり、どこの歯科医院でも対応しているわけではありません。歯髄保存治療に対応していない歯科医院などでは、神経を残せるにもかかわらず除去してしまうケースもあります。一方で、歯髄保存について専門的な知識・技術を有するドクターであれば、歯が大きく欠けた場合でも神経を残す可能性を探ってくれるはずです。
神経を失った歯は大幅に寿命が縮んでしまうため、できるだけ神経を除去するのは避けたいもの。大切な自分の歯を長く使っていくためにも、歯髄保存治療に力を入れている歯科医院を選ぶべきです。
>> 東京国際クリニック/歯科の歯髄保存治療
歯が欠けても痛まない場合は?
通常、歯が欠ければ痛みが生じますが、痛みを感じない場合もあります。たとえば、虫歯や外傷によって歯の神経が鈍感になっている場合は痛みを感じにくくなりますし、歯の神経が壊死していれば痛みを感じることはありません。ですが、痛みを感じないからといって欠けた歯をそのままにしておくと、後々、虫歯になっても気付かないなどリスクが大きいため、早めに治療を受けるようにしましょう。
まとめ
歯が欠けたときに大切なことは、「なぜ欠けたのか?」という原因を突き止めて、その原因を取り除くことです。もし、歯が欠けた原因が歯ぎしり・食いしばりなのであれば、これらを改善しなければいけません。しかし、歯ぎしりや食いしばりはストレスなどの精神的な要因が引き金になっているケースも多いため、すぐに改善するのが難しいかもしれません。その場合は、就寝時にマウスピースを装着するなどの対症療法も必要になってきます。
いずれにしても、根本的な原因を除去しない限り再発のリスクがつきまといます。信頼できる歯科医院で正しい診断を受けて、原因除去に努めましょう。
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監修者情報
公開日:2019年11月26日
更新日:2024年1月22日
清水智幸(しみずともゆき)
東京国際クリニック/歯科 院長
歯学博士。日本歯科大学卒業後、近代歯周病学の生みの親であるスウェーデン王立イエテボリ大学ヤン・リンデ名誉教授と日本における歯周病学の第一人者 奥羽大歯学部歯周病科 岡本浩教授に師事し、ヨーロッパで確立された世界基準の歯周病治療の実践と予防歯科の普及に努める。歯周病治療・歯周外科の症例数は10,000症例以上。歯周病治療以外にも、インプラントに生じるトラブル(インプラント周囲炎治療)に取り組み、世界シェアNo.1のインプラントメーカー ストローマン社が開催するセミナーの講師を務めるなど、歯科医師の育成にも力を入れている。
・日本歯周病学会 認定医
・日本臨床歯周病学会 認定医
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