2024.01.23
歯周病治療で扱うレーザーについて
レーザー治療は、ある一定の波長からなるレーザーを患部に照射することで、その光や熱によってさまざまな治療的効果を実現する方法のことです。レーザーを用いた治療は医科の分野では90年代から使用されていますが、近年では歯科の分野でも取り扱う医院やクリニックが増えてきました。
しかし、歯周病(歯槽膿漏)においては必ずしもレーザー治療によって改善が期待できるわけではありません。今回のコラムでは、私たち東京国際クリニック/歯科が考えるレーザー治療の有効性と注意点についてご紹介します。
歯周病治療におけるレーザーの役割
歯周病治療でもっとも重要なのは、歯周病菌の温床になっているプラーク(歯垢)・歯石を除去することです。プラークや歯石は、デブライドメントやスケーリングといった処置で取り除くのが基本ですが、レーザーを用いるケースもあります。
レーザーの光や熱は、健康な組織を傷つけることなく患部だけにピンポイントにアプローチすることができます。加えて、器具が届きにくい狭い箇所にも届くので、歯周ポケットの奥深くに潜んでいる細菌を除去するのに効果的です。口腔内の状態によっては、デブライドメントやスケーリングに加えてレーザーを併用することで歯周病治療を効率的に進めることができます。また、レーザーには細胞の再生を促して組織を活性化させる働きもあります。
もちろん、歯科用レーザーは安全性が確認されており、副作用の心配はありません。妊娠中の方やペースメーカーを使用している方も、安心して治療を受けていただけます。
■レーザー治療と一般歯科治療との違い
現在、歯周病治療におけるレーザー治療の評価は高くはありませんが、まったく効果がないわけではありません。一般的な歯科治療に比べると、レーザー治療には以下のようなメリットがあります。
・歯周ポケットの奥深くまで届く
レーザーの光や熱は歯周ポケットの奥深くにまで到達します。他の器具ではアプローチできない深い部位や複雑な部位の細菌除去に効果を発揮します。
・痛みがほとんどない
レーザー治療はほとんど痛みを伴いません。出血もほとんどなく、体への負担が少ない治療だと言えます。
・患部の治癒が促進される
レーザーには細胞の再生を促して組織を活性化させる働きがあります。そのため、患部の早い治癒が期待できます。
・治療時間を短縮できる
一般的な歯周病治療では、歯周病菌の温床となっているプラークや歯石を手作業で除去しますが、どうしても時間がかかりがちです。一方で、レーザー治療はそれほど時間がかかりません。
レーザー機器の種類
現在、歯科治療で使用されている主なレーザー機器には以下のようなものがあります。
■炭酸ガスレーザー
歯科治療でもっともメジャーなレーザーです。エネルギーのほぼすべてが組織の表面で吸収される非透過性で、歯茎の切開・切除などに使用されます。周辺組織への負荷はほとんどありませんが、歯周病治療における効果は認められていません。
■Nd:YAGレーザー
Nd:YAGレーザー(ネオジウムヤグレーザー)は炭酸ガスレーザーと異なり、レーザーが組織の中に浸透します。麻酔治療や根管治療、顎関節治療などに効果がありますが、こちらも歯周病治療では効果が認められていません。
■半導体レーザー
組織への透過性が高いレーザーで、後述する「光線力学療法(PDT治療)」で使用されているのはこちらのタイプです。色素に吸収されやすいという特徴があり、歯茎の切開や止血、凝固、治癒促進などに用いられます。
■Er:YAGレーザー
Er:YAGレーザー(エルビウムヤグレーザー)は水への吸収性が高く、組織表面にエネルギーが集中する安全性が高いレーザーです。軟組織(歯茎)だけでなく硬組織(歯石)にも使用可能。歯周病治療では、歯石を歯根面から剥がし、プラークに含まれる細菌を死滅させるのに使われます。歯周病治療において、有効性が認められている唯一のレーザー機器です。
歯周病に効果があるレーザー治療とは?
科学的根拠に基づいた歯周病治療をご提供する当院では、ヨーロッパ歯周病学会とスウェーデンのナショナルガイドラインでただひとつ治療効果が評価されている「Er:YAGレーザー」を使用しています。それ以外のレーザーを用いた治療やフォトダイナミックセラピー(PDT治療)は現状、歯周病への有効性が認められていません。私たち東京国際クリニック/歯科でも院内で検証はしましたが、同様に有効性は確認できませんでした。
とはいえ、Er:YAGレーザーを用いた治療の有効性が極めて高いかと言うと、必ずしもそういうわけではありません。最近の論文では、歯周病治療におけるEr:YAGレーザーの有効性は超音波スケーラーよりも劣るという評価になっています。当院の歯周病治療「PERIOD.(ペリオド)」では部位や症状に応じてレーザーを使用しています。
■レーザー治療を受ける歯科医院選び
レーザー治療と聞くと、「すごく効きそう」「最先端の治療法」「痛くなさそう」というイメージを持つ方は少なくありません。そのため、歯周病治療を受けるときに、レーザー治療に対応しているかどうかで歯科医院を決める患者様もいるようです。しかしながら、レーザー治療は万能な治療ではなく、レーザーだけで歯周病を治すのは不可能です。当然ですが、他の治療法が最適なケースや、レーザーを用いても効果がないケースは多々あります。重要なのは、レーザーを使うべきケースを正しく判断でき、最適な方法でレーザーを使えるかどうか。歯周病治療に関する豊富な知識・ノウハウを有しており、必要に応じてレーザーを用いることで治療効果を最大化できるドクター・歯科医院を選びましょう。
■レーザー治療の注意事項
・レーザー治療をおこなう場合は、患者様の目にレーザーの光線が入らないようにするために必ず専用の保護メガネを装着していただきます。
・レーザー治療は痛みが少ないのがメリットですが、たまにピリっとしたりチクっとしたりすることはあります。
・レーザー治療による出血や痛みはほとんどなく、食事や仕事などで制限を受けることもありません。治療後はすぐに日常生活に戻ることができます。
最近話題の「光線力学療法」とは?
みなさんは、「光線力学療法(フォトダイナミックセラピー:PDT治療)」と呼ばれる歯周病治療をご存知でしょうか?簡単に言えば「レーザーを用いて歯周病菌を死滅させる治療法」ですが、高熱を照射する従来のレーザー治療とはアプローチが異なることから「負担の少ない歯周病治療」「最先端の光殺菌技術」などと謳われています。
光線力学療法では、まずは歯周病やインプラント周囲炎になっている部分にメチレンブルーを主成分としたバイオジェルを使用し、細菌を青く染色します。そこに非熱半導体レーザーで赤色光を照射して化学反応を起こし、活性酸素を大量に発生させて歯周病の原因菌だけを死滅させる――というのがそのメカニズムです。
■光線力学療法に対する疑問
光線力学療法を活用した歯周病治療は科学的根拠に基づく裏打ちが不十分なため、私たち東京国際クリニック/歯科ではこの治療法を行っていません。具体的には、以下のような疑問点が残るからです。
・メチレンブルーで本当にすべての歯周病菌が染色されるという科学的根拠がない
・酸素濃度が低い歯周ポケット内で活性酸素が大量発生するという科学的根拠がない
・レーザーがバイオフィルム(バリア)を破って細菌に作用するという科学的根拠がない
よくある質問
歯周病を治さないでいると、どうなるのでしょうか?
歯周病を放置していると歯を支えている顎の骨がどんどん溶かされていき、最終的には歯が抜け落ちてしまいます。また、歯周病菌が血流に乗って全身を巡ることで、様々な全身疾患の引き金になることが分かっています。たとえば、糖尿病が悪化したり、脳梗塞や心筋梗塞を引き起こしたりすることがあるので、注意が必要です。その他、誤嚥性肺炎や骨粗鬆症、腎炎や関節炎の原因になるほか、妊婦さんの場合は、早産や低体重児出産のリスクが高くなることも明らかになっています。
歯周病の治療方法
歯周病治療は、具体的にどのようなことをするのでしょうか?
歯周病治療の基本は、原因であるプラークや歯石を取り除く治療が中心になります。軽度の歯周病であれば、スケーリングやデブライドメントなどの非外科処置でプラーク・歯石を取り除いていきます。歯周病が中度や重度にまで進行している場合は、歯周ポケットの奥深くにまでプラーク・歯石がこびり付いているため、歯茎を切開してプラーク・歯石を除去する外科処置をおこなう場合もあります。歯周病治療の詳細は以下のページをご覧ください。
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監修者情報
公開日:2016年1月12日
更新日:2024年1月23日
清水智幸(しみずともゆき)
東京国際クリニック/歯科 院長
歯学博士。日本歯科大学卒業後、近代歯周病学の生みの親であるスウェーデン王立イエテボリ大学ヤン・リンデ名誉教授と日本における歯周病学の第一人者 奥羽大歯学部歯周病科 岡本浩教授に師事し、ヨーロッパで確立された世界基準の歯周病治療の実践と予防歯科の普及に努める。歯周病治療・歯周外科の症例数は10,000症例以上。歯周病治療以外にも、インプラントに生じるトラブル(インプラント周囲炎治療)に取り組み、世界シェアNo.1のインプラントメーカー ストローマン社が開催するセミナーの講師を務めるなど、歯科医師の育成にも力を入れている。
・日本歯周病学会 認定医
・日本臨床歯周病学会 認定医
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